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森美術館初の女性館長が手がけた“高齢女性アーティスト展覧会”。性別や年齢を超えた“多様性”を伝える | 報道ステーション | ニュース

テレビ朝日が“withコロナ時代”に取り組む『未来をここからプロジェクト』。

『報道ステーション』では、多岐にわたる分野で時代の最先端を走る「人」を特集する企画『未来を人から』を展開している。

今回取り上げるのは、2020年1月に女性として初めて森美術館の館長に就任した、キュレーター・片岡真実(かたおか・まみ)さん。

これまでに会田誠やアイ・ウェイウェイなど有名アーティストの個展を手がけ、2018年開催の現代美術の祭典『シドニー・ビエンナーレ』では、45年の歴史で初めてアジア人として芸術監督に抜擢。

2020年から2022年まで、非ヨーロッパ人として初めて「国際美術館会議」の会長を務め、『あいち2022』(※『あいちトリエンナーレ』から名称変更)の芸術監督にも選出されている。

そんな現代アート界を牽引するキュレーターがこのたび腕をふるったのは、東京・六本木の森美術館にて開催中の『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』。

世界各国の72歳から106歳までの高齢女性の作品で構成されたこの展覧会は、女性であるだけで美術業界、ひいては世間から差別を受けてきたにもかかわらず、自身の表現を曲げずに生き続けてきたアーティストたちの強い意志の力を感じさせる。

これまで見過ごされてきた存在に光を当てるキュレーターの片岡さんが見据える未来とは――。

◆美術界はいま、大きな転換点にある

東京・六本木の森美術館にて、2021年4月22日から2022年1月16日まで開催されている『アナザーエナジー展』。

フィリダ・バーロウ『アンダーカバー2』(2020年)

入ってまず目に飛び込んでくるのは、高さおよそ5メートルある彫刻作品。セメントの塊や布など、工業用の材料でつくられたカラフルな作品が訪れた人々を迎える。

インドネシアの伝統織物から描き出した、多彩な色使いのキャンバス画『織物の次元 1番』や、無数の絹糸とともに吊された絵画で、日本の絹産業(きぬさんぎょう)の歴史を表すインスタレーションの『シルクロード』が続く。

展示されている作品に共通するのは、作り手が72歳から106歳までの高齢の女性であること。

女性であるというだけで展示する機会すら得られず、作品も無視されてきた。長い間、光が当たらなかったにもかかわらず、自分の道を信じて表現し続けたアーティストたちの想いが結実した作品たち。

これらを鑑賞した人たちは、このような感想を述べている。

「こういうことを感じて、ここに焦点を当てるのか。長く生きていないと分からないのかなって思いました。いくつになってもつくり続けられるというのはすごいです」(美大に通う女性)

「みなさん、みなぎるエネルギーで若々しいですよね。私はもう歳なので、いろいろなことを諦めようかなって思っていたけど、別にここで諦めることはないんだって思いました」(70代女性)

この展覧会を手がけたのは館長の片岡さん。彼女はいま、美術界が大きな転換点にあると語る。

「白人の欧米の男性を中心につくられてきた美術の歴史が、大きく多様化しようとしています。女性だけの展覧会をつくったのは今回が初めてなので、自分の中でどのように位置づけるのか、いろいろ考えましたね」

彼女がまず案内してくれたのは、1970年代から社会問題に取り組むアメリカ人アーティスト、スザンヌ・レイシーさんの作品。ニューヨーク・ブルックリンの住宅街の一角で、365人が様々な社会問題について議論し、それを見ている人さえも表現の一部としたプロジェクトを映像で紹介している。

スザンヌ・レイシー『玄関と通りのあいだ』(2013/2021年)

床やベンチには「ジェンダーは重要?」「なぜ女性の収入の方が少ない?」などの問いが記され、これらの問いについて繰り広げられる人々の意見を感じ取ることができる。

3つのスクリーンに囲まれて動画を見るうち、その世界に没入していくような感覚を持つように設計されている。

「彼女の作品は、美術館の中ではなく、街で起こっている出来事なんです。都市空間で起こっていることを美術館という展示空間で見せるために、今回はあえて3面のスクリーンに編集してもらいました。見る人があたかもこのストリートにいるかのような、この通りを往来して歩いているような形で見られる演出です」(片岡さん)

レイシーさんは現在、ロサンゼルスを拠点に制作を続けており、自身の活動について、このように語っている。

「創作活動としてペインティング、絵画、彫刻などを試しましたが、個人的に一番面白かったのがパフォーマンスアートでした。早くからパフォーマンス・コンセプチュアルアートの活動をはじめて、樹脂、彫刻、チョーク絵などいろいろな方法を試してきましたが、一番興味があったのは実演でした。私の作品内では、個人の関係性や社会的関係性などが強く反映されています」(レイシーさん)

このほかにも「若さを女性の美徳」とした新聞記事に抗議するパフォーマンスアートなど生み出してきた。制作をはじめた当時は苦悩があったという。

「私の初期作品の中には、女性に対する暴力を表現するものがありますが、当時の社会は女性に対する暴力が今ほど問題視されていませんでした。

1970年代の女性の経験と現代の女性アーティストの経験は、大きく異なるどころかあらゆる面で全くの別物といえます。特にアートの分野では作品を展示することも大変で、作品が注目されることもなく無視されたり、適切に評価されることもありませんでした」(レイシーさん)

◆アーティストの元へ直接足を運び信頼関係を築く

女性に対する差別が色濃く残る、半世紀以上前から創作に打ち込んできた。そんな女性たちの作品が約130点展示されているのだ。

ミリアム・カーン『美しいブルー』(2017年5月13日)所蔵:ワコウ・ワークス・オブ・アート(東京)

スイス出身のミリアム・カーンさんが描いた油絵について、片岡さんはこのように解説する。

「これはヨーロッパで難民問題がすごく大きくなった2017年に描かれた作品で、海の中に人が沈んでいる様子を描いています。作品の前に立つと壁に爪痕が残っているようで、沈みたくないのに沈んでいく…、という感覚が響いてくる。写真だと伝わりづらいので、ぜひ実際に見ていただきたいです」(片岡さん)

ユダヤ系の両親をもつカーンさんは、過去の複雑な歴史や事情に関心を寄せ「逃げる難民や移民」を多く描いてきた。

空間アートに彫刻、絵画と作品は多彩でユニーク。

片岡さんがこの展覧会を企画したのは、女性たちの「挑戦しつづける力」とは何かという探求心からだった。

「作品から言葉では説明できない強いエネルギーが感じられます。50年以上にわたって、美術館やマーケットにそれほど評価されていなかったとしても、自分の信じる道を歩んできたこと。それはいったいどういうエネルギーなのか?

“アナザーエナジー”、『アナザー=何か別の』という意味をつけたのも、わかりやすいエネルギーではなくて、なんとも説明のしようのない、特別なエネルギーがこの人たちにあると感じたから。それが何かを探りたいし、見に来た人も考えてほしいです」(片岡さん)

さらにこの展示会では、作品を超えてそれぞれが放つエネルギーを感じるため、ある仕掛けが施されている。美術館においては異例の“アーティスト本人のメッセージ映像を流す”ことだ。

作品のみならず、アートの社会における役割や人生観など、16人全員の言葉から知ることができる。プロジェクターの設置場所についても、鑑賞する人の視点に立って作品との距離や位置関係を徹底的にこだわった。

「今回はArt&Life“作品と人生そのもの”が、ほぼ重なりあっているような人たちを見せているので、表現した成果物としての作品を見せるだけではなくて、人間も見せたいなと考えました」(片岡さん)

人間性も含めて伝えることを重視する片岡さんは、展覧会を企画するたびにアーティストの元へ直接足を運び、信頼関係を築いてきた。

インドネシアで活動するアーティストの作品を扱う際には、直接、話を聞きに行き、その家族にも取材するなど徹底的に調べつくす。

「キュレーターとして、コロナ前まではアーティストに会いに行くことが鉄則でした。どんな家庭で、どんな友だちがいて、何を食べて、どんな祭りに出かけるのか。作品もしくはアーティストと観客の仲介者という立場なので、一緒に時間を過ごすことで、その人を代弁することが許されるくらいの情報量を得ようと思って通うのです」(片岡さん)

◆アートを通して「世界の多様さ」を伝える

16人のアーティストの作品が並ぶ『アナザーエナジー展』で、順路の最後に位置するのが日本人の美術家・三島喜美代(みしま・きみよ)さんの作品だ。

三島喜美代『作品 92-N』(1990-1992年)

うず高く積み上げられた新聞や雑誌。この一つひとつが陶器でつくられている。生まれては捨てられていく膨大な情報、その儚さを壊れやすい陶器で表現。タンクから溢れ出る情報のゴミは、もはや収まりきれないとでもいうかのよう。

「一つひとつ、大阪の小さな窯で焼いたので、すごく大変な作業なんですけど、130個つくってくれました。いろんな衝撃的なものがあった最後、展示のトリは三島さんだと最初から決めていました」(片岡さん)

これまで大阪のアトリエで膨大な量の陶器を制作してきた三島さんは、今回の展覧会のために新作をつくり上げた。

「(制作中に)股関節、痛めてしまって手術になったんです。もしも、何かあってもリハビリとかすれば足は動くようになります。でも、展覧会はそのとき限りですから、やっぱり展覧会の方をちゃんとしないと、と思って頑張りました。仕上がったときはうれしかった。130できたとき、『あーやれやれ!』って思いましたね」(三島さん)

1970年代のはじめから、氾濫する情報やゴミを陶器で再現する作品に挑んできた三島さんは、88歳になったいまも毎日アトリエに立ち続けている。その原動力はどこから生まれるのだろうか。

「好奇心かな。パッと見て、これ面白いなって思う好奇心。それをずっと持って作品に生きていますから。それがなかったら人生面白くないね。

(制作は)楽しいですね。嫌だなって思ったことはない。それが不思議でしょうがない。面白いんです。体のほうは痛いよって言ってますけど、気分的には面白いなと。

いま、88歳を超えたところですけどね、長いと思っていません。いつの間にか、ここまで来たねという感じ」(三島さん)

撮影:田山達之 画像提供:森美術館

半世紀以上、自分の信じる道を歩んできた女性たち。そこに「女性」「年齢」という「枠組み」を超えた“エナジー”があったのだ。

「光を当てるべき人には、光を当てるべきではある。でも、『女性』『年齢』『日本人』…と社会的なアイデンティティで人を括っていったときに、逆にその人たちを閉じ込めているのではないかという思いもあります。それを入口にしながら、最終的にはあくまで『個』の問題であって、属性などによって人間が規定されるべきではない、という境地までいきたいです。

様々な意見や価値観、もしくは宗教観などが、この地球上を覆っている限り、統一した見解を出すのはどの場面でも難しい。

複雑さをシロかクロか無理やり決めようとすると、分断が起こってしまう。シロになることもあれば、クロになることもある。そういう状況が許されるような選択肢や世界をつくることができたらいいのかなと思います」(片岡さん)

アートを通して「世界の多様さ」を伝える片岡さんが思い描く未来とは…。

「世界は本当に多様です。自分が日本にいて知っている世界は、本当に小さな一部でしかないと、毎回、感じさせられます。カラフルで、多様で、面白い世界を少しでもこの空間で伝えたいと考えています。

そのために必要なのは“関係しないという関係”をよしとするということ。人はどうしても、分かりあおうと思いがちなんですが、『分かり合えないけど、あなたの文脈では、それはそう考えますよね』という関係。自分と分かり合えないとしても、認めていく。そういう関係性を1つの選択肢として持つことができるといいんじゃないかと。

自分と違う考え方を持っている人に向かって、あえて『それは違う』と言いにいかなくてもいいのでは。バラバラな人たちがそのまま、生まれたままに生きることができる。それでいて、地球全体がうまくバランスをとっているような、そんな未来が来たらいいなと思います」

<構成:森ユースケ>

※関連情報:『未来をここからプロジェクト』


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